井上 大智さん|Daichi INOUE

井上 大智さん|Daichi INOUE

合格スクールThe University of Warwick
留学先(国)イギリス
専攻(メジャー)PhD Business and Management
職業経営戦略コンサルティングファーム勤務

今回はコンサルティングファームでキャリアを築かれ、The University of WarwickでのPhD留学を決められた井上さんにお話を伺う事が出来ました。これまでビジネスの現場で感じられた想いやご経験と、学術的な探求心をどのように結びつけ、新たな一歩を踏み出されたのか。特に難易度の高いPhDへの留学準備から未来への抱負まで、詳しくお伺いしました。

Q1. まずはPhD留学を目指されたきっかけからお伺いできますか?

Q1. まずはPhD留学を目指されたきっかけからお伺いできますか?

もともと、国内の修士課程を修了した当時から研究に強い関心がありました。なので、PhDに進学するのか、それとも一度実務の世界に身を置くのか、両者を考えたんです。

その時は、まずビジネスの現場を経験したいと考え、コンサルティングファームに就職し、そこで4〜5年実務経験を積みました。刺激的な日々を送っていましたが、一方で研究への熱も消えなかったため、研究の道に戻るのも一つの選択肢かなと思うようになりました。

国内の修士課程ではスタートアップの経営戦略を研究していたのですが、実際には戦略のみならず、そこで働く「人」や「組織」という要素が非常に大きいんですよね。当然ですが、戦略を実行していく上で、組織の側面まで考慮する必要があることをコンサルティングファームにおいて肌で感じたんです。

なので、現在は「戦略」に加えて「組織」に興味関心を持つようになっていて、組織内で新たな取り組みを促進するためのメカニズムや既存理論を踏まえた研究をしてみたいという想いが、このタイミングで留学を決意した大きなきっかけとなっています。

何かに挑戦したい、あるいは探求したいと思える時期は、年齢的なことを考えると永続的なものではないと思います。知的な欲求や経験があっても、身体や頭がついていかない、コンディションが伴わないこともあると思うんです。

そう考えると、今はある程度の経験も積み、体力的な不安もないため、タイミング的にも今年、来年あたりに挑戦できるとベストかなと思い、留学を決意しました。


Q2. 大学院留学に向け、いつ頃からどのようにご準備を進められましたか?

Q2. 大学院留学に向け、いつ頃からどのようにご準備を進められましたか?

昨年の5月頃にこちらへ相談させていただいたのですが、その時にご提示いただいたスケジュールを見て、時間の余裕があまりないことに気づき(笑)、サポートをお願いすることにしました。

それから出願校についてご相談を進めつつ、7月に初めてIELTSを受験しました。

IELTSを受ける前に一度TOEFLも受験してみたのですが、思うようなスコアが出ず、感覚的に自分には合わないのかなと感じたので、IELTSに切り替えました。すると、1回の受験で目標スコアを達成できたんです。

大学院時代に論文をすべて英語で読んでいたので、そこで読解力は培われていたのかもしれません。当時はChatGPTもなく、自力で読むしかありませんでしたから、、。ただ、スピーキングは対策が必要だと感じていたので、オンライン英会話をコンスタントに実施していました。

IELTSのスコアが取れてからは、年末まで月に1回のペースでGREを受験し、合計4回ほど受験したと思います。それと並行して出願書類を作成し、年明けに出願という流れでしたね。


Q3. 国や出願校はどの様に選ばれましたか?

Q3. 国や出願校はどの様に選ばれましたか?

こちらでサポートをお願いしていたので、トップ校から国をまたいで幅広く検討しましたが、必ずしも自身の志向に合わない大学も割とありました。なので、大学のレベルも大事ですが、自分の興味関心や研究領域、研究手法などが合うかどうかを重視して選んでいきました。

国を選ぶ方針としては、トップジャーナルに掲載されている論文を読み込む中で、特に欧州の大学に所属する教授方が書かれた論文のアプローチに強く惹かれたので、最終的には欧州の大学を主体に検討を進めました。

今は定量的なリサーチが発展していますが、私の場合、定性的な研究に重点を置きたかったので、関心のある「戦略」「組織」に関する研究領域を持ち、かつ定性的な研究が可能な大学。さらに、私のバックグラウンドであるスタートアップ企業の経営戦略の研究実績が活かせそうな大学、という観点で出願校を絞り込みました。特に、新しい事業を生み出すことと組織を絡めて研究できる大学は、多くはなかった印象です。

また、これは現実的な部分ですが、PhDとなると非常に長期の留学となるため、やはりフルファンディングが提供されるプログラムを優先的に検討しました。今回進学予定のUniversity of WarwickのPhDプログラムは、まさに私にとって理想的でした。MResから始めて計5年間でPhDを取得するカリキュラムで、私の関心分野である「Organisation & Work」の研究グループがあり、さらにフルファンディングが提供されるんです。もし叶わなければ来年再出願しようと考えていたのですが、幸運にも1年目でオファーをいただけたのは非常に嬉しかったです。


Q4. 留学ご準備の中で大変だった事や逆に得られた事など、印象に残っている事があったら教えて頂けますか?

Q4. 留学ご準備の中で大変だった事や逆に得られた事など、印象に残っている事があったら教えて頂けますか?

英語学習は、もちろん大変でしたが、「努力すればクリアできる」という感覚があったので、そこまで大きな壁とは感じませんでした。書類作成もサポートをいただけたので比較的スムーズだったのですが、インタビューに向けてのリサーチプロポーザル(研究計画書)の作成が一番苦労しました。

どのような切り口で研究テーマを設定し、どのような手法で進めるのか。漠然としたアイデアを具現化するプロセスは大変でした。テーマの切り口や私のバックグラウンドが面接官にとって魅力的に映って、「面白い」と思ってもらわなければいけませんからね。

書き進める中で、先行研究や他の研究者がどのようなテーマを探求しているのかを理解して、それらと自身の興味を対比させることで、「この対象で、この切り口なら学術的な価値があるのではないか、面白いのではないか」という確信が徐々に明確になっていきました。自分の頭の中だけで考えるのではなく、頭にあることをいったん出してみて、他と比較する中で徐々に自分らしい研究テーマやスタイルが見つかっていったという感覚です。

大変でしたが、このプロセスは本当にやっておいて良かったです。このプロセスがなければ、たとえ合格をいただけたとしても、研究の方向性が見えずに途方に暮れていたかもしれません。今は「これを研究したい」という明確な方針があるので、現地に行ったら様々な研究者と活発な議論をぶつけ合っていきたいと思っています。審査でこの課題が与えられたのは、そうした「自身の研究テーマを明確にする」ことを求められていたからなんだと今は思います。

実際のインタビューに関して、事前に3名の教授が面接官を担当して下さると聞いていました。ですので、その面接官の方の論文を読み研究領域なども確認をした上で臨んだのですが、当日Teamsの画面を開くと、6名もの方が並んでいらっしゃったんです。

3名の教授の事前情報しか確認していないのに、まさかの6名(笑)。非常に驚きました。ただ、聞かれた内容は比較的ベーシックで、これまでの研究成果と現在の興味関心がなぜ、どのように結びついているのか、といった事が主だったと思います。

普段はある程度は「ぶっつけ本番で何とかする」と考えるタイプなのですが、さすがにここは人生を左右する重要な局面だと感じていたので、想定質問を70〜80問ほど作り、英語で回答を作成し、エクセルに書き出して直前まで眺めて臨みました。この1時間ほどで人生が変わる可能性があるという意識で、何を問われても即座に言葉が出てくるように準備しました。

一般的な質問以外では、PhD課程に進むと「教える」という機会も出てくるので、「ティーチングに興味があるか」という様な質問や、これは今でも明確に意図が分かっていないのですが、「読むことは好きか」と聞かれて「かなり好きです」という感じの事を答えたりもしましたね。

研究者の方によっては、実地に行って見てきたものから咀嚼して進めるタイプの研究者の方もいらっしゃると思いますが、私の場合は少なくとも現時点では論文を深く読み込んである程度の仮説を立てるという手法を好むため、そうした側面を聞かれたのかなと推察しています。

最終的に3校出願し、全ての大学からインタビューの機会をいただけました。ただ、心の底から行きたいと真摯に進学を希望し、教授の論文を深く読み込んで臨んだのはWarwickのみでした。そうした熱意が伝わり、合格をいただけたのではないかと推察しています。

実際のインタビュー時も、もちろん緊張はしましたが、楽しく円滑に会話ができました。合格後に伺った話では、やはり相性の良さのようなものを感じていただけたようでした。


Q5. 渡航を控え、今のお気持ちや留学中/ 後の抱負をお聞かせ頂けますか?

Q5. 渡航を控え、今のお気持ちや留学中/ 後の抱負をお聞かせ頂けますか?

まだ仕事をしていて多忙な日々を送っていますが、出発まで2ヶ月前になってようやく実感が湧いてきた感じです。ビザの申請や寮の手配などを進めていると、「いよいよ出発するのだな」という気持ちが強くなりますね。これまでの人生でも、例えば東京に上京してきた時なども、同様の感覚がありました。

私は短期留学の経験もなくここまで来ましたが、初めての留学でいきなり5年という長期留学を経験することになります。もちろん不安はありますが、既に前述したような同様の感覚を経験したことがあり、ある程度客観的に状況を捉えられているため、そこまで大きなものではありません。

むしろ、この年齢で未知の挑戦ができるのは貴重な機会だと考えています。トップジャーナルに掲載されるような研究者の方々と議論できる環境は、きっとチャレンジングで、新たなインスピレーションを与えてくれると期待しています。

留学中の研究対象は現時点ではそこまで絞っていませんが、一貫して「戦略」やそれを実行する「組織」に関する研究を深めたいです。私がコンサルティングファームで働きながら感じたのは、組織の多くは、変革に時間を要するということです。

正しいことをただ伝えても動かない。しかし一方で、働く方々の中には自律的に先進的な取り組みを積極的に行っている人もいます。そのメカニズムは何なのだろう、と。組織によって全て事情は異なるため、個別事例の話をすると「他のケースには適用できない」と言われることもありますが、それでも何らかの本質的なエッセンスがあるのではないかと考えています。

ただし、そのエッセンスも抽象化しすぎて当たり前の主張になってしまったら意味がない。「あ、そういう見方もあるんだ」と感じてもらえるような知見を見つけていきたいし、発信していきたいと考えています。

それが、新しい理論や視点を生み出すきっかけになるはずです。まだ20代の私が「社会に貢献したい」と言ってしまうのは、自身の現状と照らし合わせると、気後れする部分もあるのですが、、。

最終的に組織が動くことが最大の成果だとは思いますが、コンサルティングファームにいた頃から一貫して抱いている考えとして、これまでとは違った解釈を投げ込んでいけるような研究や働きかけを続けることが、私の揺るぎないモチベーションとなっています。

常に新たな視点や解釈を投げ込み続け、目の前の人が「そういう見方もあるのか」と感じてくれるような視点を提供していきたいですね。その結果として組織が動けば、それが一番嬉しいことです。

そのような働きかけをしていきたいと思うのは、実は私も人生の節目でそういった事をしてきてもらっているからなんです。私はもともと関西の出身で、当初大学も東京へ行こうとは思っていなかったのですが、その時の先生の言葉で考え方が変わりましたし、今回の留学も大学の恩師の影響が大きいんです。

恩師や様々な人から新しい視点を与えられ、成長させてもらってきたので、今度は私が媒介者となって、そうした良い影響を周囲に与えられる存在になりたいと思っています。


Q6. 色々なお話、ありがとうございます。 最後に現在大学院留学を目指されていらっしゃる皆様へアドバイスやメッセージなどございましたらお願いたします。

Q6. 色々なお話、ありがとうございます。 最後に現在大学院留学を目指されていらっしゃる皆様へアドバイスやメッセージなどございましたらお願いたします。

メッセージ、ですか。私が言うのもおこがましいと思ってしまうんですが(笑)。

振り返ってみると、今回の受験の準備期間を通じて、書類作成も、面接対策も、その全体を楽しみながら取り組むことができたなと思います。そのプロセスの中で多くのことを学びましたし、何より「楽しむこと」が重要だと感じています。

行きたい場所に焦点を当てて、そのプロセスを楽しんでほしいです。結果ももちろん重要ですが、もし思うようにいかなかったとしても、その準備期間が無駄になることは決してないと思います。プロセスそのものが楽しめれば、必ず何らかの形で活きてくるはずです。

私は今後も人生の中で迷い悩む時期と、目標に向かって集中する時期とを行き来することになると思いますが、まず行動を起こすこと、動くことが本当に大事だと思うんですよね。

その人にとって変革したい対象がキャリアなのか、意識なのか、それとも生活や環境なのか、様々だと思いますが、いずれにせよ変化のきっかけは、まず「行動を起こす」ことによって生まれます。私が今回動いたことで、私の周りでも「自分も考えてみようかな」といった声も聞こえてきたりもしました。

私自身も多くの方々に「良い方へ動かしてもらった」経験を持つため、今度は私が媒介者となって、周りの人たちに良い影響を与えられたら嬉しいです。